農政ジャーナリスト 内山 実

 6月29日(土)~30日(日)、「十勝の自然と美味しいものいっぱいツアー・総勢17名、老若男女」(旅システム)に参加。ビックリ仰天の農民との出会いについて報告する。
 札幌駅北口をバスで8:40分出発、高速道路をヒタ走る。まず自然、北海道の原始林が繰り出す、様々な緑に圧倒されているうちに、昼前、高速終点の大樹町に到着。

①「半田ファーム」(半田司氏)
 お昼をいただいたのが「半田ファーム」。2階の食堂からみえる約10町歩はあろうかと見えた牧草地(1番草は刈取後)にホルスタインが遊んでいる。自家製の堅く焼いたパン、セミハードのチーズ(あぶって食す)、飲用ヨーグルト、焼野菜を腹イッパイいただく。
 半田さんの搾乳牛は90~100頭。これ以上増やさない。放牧だから牛舎はない。ヘリボーンの搾乳舎があり、牛が自分で入ってくる。育成中は濃厚飼料(穀物)を少しやるが、成牛はロールベールサイレージ(牧草の漬物)と草で育てる。
 大規模飼育・舎飼・濃厚飼料多給・1万キロ以上の搾乳・成牛の早期回転という、どこかで奨励していることと真反対のことをやっている。これでEUに負けないチーズをつくり、牛を長生きさせ、食堂に沢山の客を呼び寄せ、孫が走りまわる豊かな経営をつくっている。これが酪農の王道だ。家族と市民に安全と美味を渡す思想がつくりあげた経営だ。
 国内で大きく消費の伸びているチーズが今安倍さんの下で危うくなっている。

②「夢いっぱい牧場」(片岡文洋氏)
 次に訪ねたのは肉牛農家の「夢いっぱい牧場」だ。片岡さんの大樹町への入植の年は1971年(S46)。京都大学農学部+相撲部を卒業して、すぐに肉牛農家を志して入植したのだから、余程の偉才だ。以来「忍」の一字で「うまい肉づくり」に精根をつくしてきた。それから約半世紀、到達点が「ビフトロ」(自称「陸の大トロ」。生肉でマグロの大トロに匹敵する)だ。
 熟成された生肉(冷凍)の細切をあったかいご飯にのっけて食べる。この肉の作り方に特許権がある。
 肉牛農家の世界では、肥育期間の短期化が当然のこととされている。コストを減らすために短期間で、A4・A5(サシによる等級)の肉をつくるということだ。普通27~28カ月で出荷するが、26カ月齢で出荷という例もある。一戸当り肉牛飼育頭数も200頭以上の割合が増えている。
 片岡さんの経営はこれと真反対だ。すべての牛に目が届き、自給飼料で養えるように、肥育頭数は100頭で抑えている。肥育期間は30カ月だ。鍵は飼料だ。片岡さんは配合飼料を使わない。自家製のロールベールサイレージだけで育てる。飼料代を圧えられるから30カ月齢出荷が可能になる。それで絶妙に脂の乘った「美味しい」肉をつくりあげた。勿論、牧草の種類、牧草地の土壌管理、そしてロールベールサイレージ管理にも細心の注意が必要だ。その上に片岡さんの肉は枝肉になってから40日間熟成させる。この熟成のさせ方が特許なのだ。名付けて「エイジング・ビーフ」。食堂も経営し、バイクの青年が列をなしてやってくる。経営は息子に譲ったが、「なつぞら」の爺のように働いている。

③「源ファーム」(大美浪源氏)
 3番目は養豚農家の「源ファーム」だ。「ケンボロー」というハイブリット豚を育てている。自慢はチーズの副産物ホエーを餌にしていることだ。イタリヤのパルメザンチーズのホエーで作られた豚の生ハムは、世界中で有名だ。ホエーの他に草も給餌しているようだ。勿論、源ファームも食堂を経営している。

 三戸の農家に共通していること、「農業は命を育て、その命を人々に供給する仕事」だと徹底している。効率化、コストの抑制、大規模化からは美味しいものは生れない。これらの農家、いずれも旅システムの社長との若い頃からの親しい間柄だとのこと。

 当日宿泊した「畜産センター」の夕飯のこと、翌日みたトーチカの無惨な構造、十勝の豆が造った文化としての「六花の森」。紙幅がないのが残念。

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